9.はじめての日


「意外と……痛くなかった、かな」
 きみの髪の滑りをたしかめながら、ぼくは呟いた。きみはぼくのとなりで、掛け布団から白い肩を覗かせ眠っている。
「こういうの……ぼく、初めてだった、けどね……うまく出来た、かな」
 きみは答えない。疲れて深く眠ってしまったのだろう。その方が都合がいい。
 こんな状況できみに話しかけているのは、感傷によるものだろうとわたしは自己分析してみる。利点がないからだ。デメリットしかない。こういう非合理的なものは、だいたいが感情に起因すると考えてよい。
 そこまで考えて、ぼくは苦笑いをする。どちらでもいい。この思考もあと数分も保たないだろう。
 ぼくは背中に手を回す。きみの愛用している包丁が、ぼくの背中に埋まっているのがわかる。部屋のすべての扉には鍵がかかっている。密室にはきみとぼく――すぐに死体になるぼくだけがいる。
「こういうトリック……はじめてにしては、うまく……いったんじゃないかな……?」

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