6.卒業
「時間の流れってホント怖いよな。ちょっと前に入学したと思ったら、もう卒業式だぜ」胸につけたコサージュをいじりながら、紫藤は恥ずかしそうにいう。「……これ、恥ずかしいんだけど、とっちゃダメかな」
だめですよと織嶋は首を降る。
「せっかくの先輩へのプレゼントなんですから。ほら、まわり見てくださいよ」
紫藤は隣の席に座る睡蓮寺も、胸に赤いコサージュをつけている。紫藤はため息をついた。
「そういえば、卒業証書授与の練習はどうでした?」
「どうもこうも、普通だよ。特に変なことするやつもいないし」
そうじゃなくて、と織嶋は呆れた顔を浮かべる。紫藤はようやく合点がいった。
「大丈夫大丈夫、本番には強いタイプだから」
「本当ですか?」と、織嶋は訝しげな視線を送ってくる。信用されてないなと、紫藤は苦笑いするしかなかった。どちらにしろもう当日だ。なるようにしかならないのだ。「わたしは先輩のこと、じっくり見させてもらいますからね」
「おう、任せとけ。お前のときの参考にするんだぞ」
そういって紫藤は手首に巻かれた時計を見る。八時半前だった。
「……っと、そろそろか。じゃあ、わたしは教室、行くよ」
紫藤は立ち上がり、大きく伸びをした。そして白いスカートをはたく。
それを傍らで見守りながら、
「行ってらっしゃい、先輩」
と、織嶋がいう。「泣かないでくださいよ」
紫藤は笑いながら、
「ダメ、多分泣く。でも、証書授与で名前呼ぶときは頑張って耐える」
そういって、職員室から出た。
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