2.秘密


暗い部屋の中、綾姫は彼の傍らに座り込んで三ヶ月と二日前のことを考えていた。

〈先輩、秘密っていったい、人間のどこに溜め込まれてるんでしょうね〉
 彼は煙草をふかし目を細める。
〈胸の中、じゃないかな。ほら、『胸の奥にしまった』とか言うじゃん〉
 綾姫はうーんと唸ったあと、
〈でも『腹に一物』ともいいますよ?〉
 彼はどうでもよさそうに煙草を灰皿に捻り、〈それは違うんじゃないか〉と綾姫を抱き寄せる。
 煙草の匂いもこれから始まる行為も、綾姫は嫌いだったが何もいえなかった。〈そうですかね〉と小さく呟いて、早く過ぎ去ってくれないかなと思うばかりだった。

 暗い部屋の中、綾姫は彼の傍らに座り込んでいた。ここは彼の部屋だ。綾姫にはいい思い出のない部屋。白い煙となにか黒いドロドロとしたものしか見たことのない部屋。
 部屋の主である彼は床に仰向けになったまま動かない。当然だろう。彼は腹の中を晒して、その中身を部屋中にまき散らしされているのだから。
 包丁を握ったまま、綾姫は窓辺に置かれたデスクに目をやる。鍵のかかった引き出し。その中にきっとあの女の手がかりがあるのだ。
 綾姫は床に落としていた小さな鍵を拾う。問い詰めたら、彼が飲み込んでしまった小さな鍵。綾姫は笑いがこみ上げてきた。
「やっぱり、秘密ってお腹の中にあったんじゃないですか」

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