16.気配
部屋の中でひとり、紫藤は首を傾げた。
「まただ……」
何かの気配がする。赤い小さな冷蔵庫が、特有の低い音を発している。だが、何かがおかしい。
紫藤が引き出しの取っ手に手をやり、引こうとする。
「……開かない」
猫のシールが貼られた引き出しは、ピクリとも動かなかった。紫藤は部屋の中を歩き回り、考える。
赤いアナログのめざまし時計。チェック柄のベッド。布のかけられた姿見……。
どこかに、何かがいる。
紫藤ははっとして、バスルームに向かう。ピンク色のバスタオルがかけられている。電気の消えたすりガラスのドアを開けようとする。
「開かない……」
「先輩……」
紫藤は振り返った。いつの間に帰ってきたのだろう、綾姫が立っていた。
綾姫は紫藤を無視して、バスルームの電気のスイッチを押し、ドアを開ける。なんのことはなく、カチャリと開いた。
その瞬間、紫藤はすべてを思い出した。
「ただいまです、先輩?」
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