11.酔い
「あー、酔っちゃった……」
そういって織嶋先輩は火のついたタバコを落とし、足で踏み消す。ひさびさにあった先輩は、あの卒業式で見た泣き顔とは似ても似つかない派手さを身に纏っていた。
「……先輩、タバコ吸うんですね」
六年前の先輩の、いかにも文学少女然とした姿を重ねながら、ぼくはいった。
「うん……」先輩は立ちくらみを我慢するようにしながら、
「……まあ、大人にはいろいろあるのよ」
そう笑った。まともに吸えもしないタバコをふかす先輩の笑顔と、休み時間に教室でひとりで本を読んでいた六年前の先輩の横顔が重なった。
「先輩はいま、なにしてるんです?」
ぼくが尋ねると先輩はまたタバコを取り出し口に咥える。火をつけながら、
「……映像関係、かな」
そう切なげに呟いた。
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