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PSP「セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~」(日本一ソフトウェア×テクスト。)

《2014-06-21》   
[ADV]

はじめに本レビューは『非実在探偵小説研究会 六号』に寄稿させてもらった「マイナー作品レビュー」を改稿したものとなります。当該同人誌が売り切れとなりましたので、レビューのみ掲載します。


 ミステリ歴の浅い私がなぜこんなレビューのお仕事を頂いたのか多分に疑問があるのだけれど、請け負ったものは仕方がない。とはいえ、先もいったようにミステリ経験値の低い私ではミステリ作品を『隠れた作品!(ばばん!)』と大々的に出したところで「あ、それ読んでますよ」「あ、はい。すみません」となること必至。ではどうすればいいか、と考えた。
 ところでライオンは、海と空の制覇を諦めることで百獣の王となったという。フィールドを変えれば、何かの優位性を得ることが出来るかもしれない。
 というわけで、今回のレビューはあえて『小説』というジャンルを外して、『ゲーム』というフィールドでの紹介をしてみたいと思う。とはいえ『ノベルゲーム』なのでさほど趣旨とは離れてもいないだろう。

 さて、今回紹介するのは2010年に『日本一ソフトウェア×テクスト。』から発売されたプレイステーション・ポータブル専用ソフト『セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~』というゲーム。
 メインのシナリオとディレクターは、アダルトゲームの『書淫、或いは失われた夢の物語。』『2nd LOVE』などのシナリオを担当した深沢豊(※1)深沢豊……伏線回収や奇想的構図に定評のあるシナリオライター。『2nd LOVE』をプレイしたあの夏の目眩くひとときを、僕は生涯忘れないだろう(パクリ)。である。

 ……いくらフィールドを変えたからって急に深海魚ステューレポルス(※2)ステューレポルス……脊索動物門条鰭綱アカマンボウ目ステューレポルス科に属する一種一属の魚類。みたいな、どマイナーなゲームを紹介しなくても……と思わなくもないが、そこは隠れた作品をレビューするという企画。『逆転裁判』シリーズなどはもちろん、『Ever17』(※3)Ever17……KIDによる全年齢対象ゲーム。傑作。高校生の頃にやって熱出た。だがPS2廉価版は絶許。とか『CROSS†CHANNEL』(※4)CROSS†CHANNEL……Flying Shineから出たアダルトゲーム。全年齢版もあり。ミステリかは微妙ではあるが、なかなかの作品。シナリオは田中ロミオ。最近Vitaでリメイクが出たり、アンドロイドアプリで『NANACA†CLASH』が出たりと活気づいてる。、あと『沙耶の唄』(※5)沙耶の唄……Nitroplusから出たアダルトゲーム。事故の後遺症に苦しむ主人公と友人たちが織り成す青春ラブストーリー作。ミステリではないものの、ホラー・オカルト系統のミステリ好きの琴線に触れるのでは。公式ホームページで可愛い沙耶ちゃんと戯れよう。廉価版もあるよ。あたりは、もう語られすぎててマイナーではないだろう。……人選ミスは他の人に言ってくれ。『螺旋回廊』『螺旋回廊2』(※6)螺旋回廊・螺旋回廊2……rufからでたアダルトゲーム。厨房掲示板で展開されるドタバタギャグコメディ。まったくの余談だが、筆者はクリスマスにケーキを食べながらプレイした。は共にミステリ要素が強かったり、『さよならを教えて』(※7)さよならを教えて……CRAFTWORKから出ていたゲーム。長らく入手困難だったが、近年BD-PG化された。女子高に赴任した新人教師と生徒が織成す感動のラブストーリー。そうです、あのコが僕の畏敬する天使様なのです。もカタルシス的な意味ではミステリ読みに薦めたいもののやはりアダルトゲームで、しかもかなり陵辱(あるいは損壊等)シーンが多い点で自粛。『Sense Off』(※8)Sense Off……otherwiseから出たゲーム。入手困難。シナリオは元長柾木。三條 美凪(さんじょう みなぎ)や香月という名前のついた登場人物が出てくるあたりジワジワ来る。などは、初期の浦賀和宏(特に最初の二冊)が好きな方には……とも思うのだが、いかんせん入手困難(※9)入手困難……『Sense Off』のゲームはもう手に入れることはほぼ不可能だが、サントラCDに本編からアダルトシーンを削除した体験版(といっても全てプレイできる)が封入されている。ただし、やはりアマゾンで超高額。なので。閑話休題。興味がある方は、各自調べてほしい。

 とまれ、今回は『セカンドノベル』というゲームについて解説しようと思う。プレイ人口があまりにも少なすぎるといった点で、今回のテーマとしては十分だろう。

 高校2年の夏、なんの変哲もなかった直哉の日常は、唐突に壊れてしまった。友人であったユウイチが、突然屋上から転落死した。そしてその後を追うように、直哉が思いをよせていた少女・彩野が、同じく屋上から飛び降りた。

 衝撃的な出来事から5年。帰省をはたした直哉は、彩野と再会する。彼女は飛び降りた際の後遺症により、「15分しか記憶が保てない」という記憶障害を抱えていた。久しぶりの再会によって動き出した、5年前の飛び降り事件の歯車。この夏2人は、かつて自分たちに起きたことの真相を知るために今、『物語』の糸をたぐり始める――
(公式サイトから引用)


 ……とまあ、五年前の後遺症から『十七歳から記憶が十五分までしか保持できない』ヒロインの思考の断片から創作された『物語』を検討し、主人公と共に『五年前の真実』に迫っていく、という内容。ヒロインは事故の前後の記憶も混乱しており、直接原因を語ることが出来ない。……要約してもややこしいが、要するにヒロインが辿々しく語る様々な『物語』――それは時に恋愛ものだったり、ホラーだったりと曲がりくねる――を整理・正規化していくことで真実に辿り着こう、というお話。ジャンルとしては『青春-自己-探索-ミステリアス-認識-アドベンチャー』というものになる。
 元々、この深沢豊というシナリオライターは『ゲームでしか出来ないことを』という話を考えるのが好きな方で、本作でもヒロインである彩野が語る物語を整理する役割を、直哉という主人公を通してプレイヤーに担わせてくる。その点でシステム面に難や野暮ったいところ・ややこしい部分(※10)システム面……『セカンドノベル』は彩野の語る話を聴く「ストーリーモード」と、彩野の話を整理する「フラグメントモード」の二つを並行して進める必要があり、「ストーリーモード」には選択肢、「フラグメントモード」では「あらすじを作る」という作業を行わなければならず、ある程度、メタ視点でのフラグ管理が必要とされる。などが出てきてしまっているのは否めないが、一方で『ゲームでしか出来ない』というコンセプトはよく守られている。
 ミステリとしては、傑作――とまではいかなくとも、プレイヤーを驚かせてくれるような仕掛けやさりげない伏線が用意されている。またミステリの探偵役に相当する主人公(=プレイヤー)としての立場を考えさせられたり、氏が得意とする複雑な構図や反転なども遺憾なく発揮されている。結末に関してや、主人公の選択等、プレイヤーそれぞれの所感はともかく、ある程度の水準には達しているシナリオだと思う。

 また本編とは関係のない作中小説として、唐辺葉介(※11)唐辺葉介……ギャルゲ史としては『瀬戸口廉也』の名前の方が通りがいいかもしれない。『CARNIVAL』や『SWAN SONG』のライターである。、市川環、田中ロミオ(※12)田中ロミオ……『CROSS†CHANNEL』『ユメミルクスリ』のライター。近年では『人類は衰退しました』などのライトノベルも手がけている。「山田一」名義では『加奈~いもうと~』『家族計画』なども。、海猫沢めろん(※13)海猫沢めろん……過去に『左巻キ式ラストリゾート』という狂気をこの世に産み落としてしまった作家。最近復刊した。ハッピースマイル!!、元長柾木(※14)元長柾木……代表作として『Sense Off』『未来にキスを-Kiss the Future-』など。ライトノベルとして「飛鳥井全死シリーズ(全死対戦シリーズ)」も書いている。といった、一部ジャンルでコアな――あるいはカルト的な――ファンを持つ作家陣を採用した書き下ろし短編を収録しているのも『セカンドノベル』の特徴のひとつである。
 こちらに関しては基本的には特殊なボーイミーツガールもののテーマ競作といったところなのであくまでおまけ程度の紹介に留めるが、ファンなら読んでおいても良いかもしれない……というところまで原稿を書いたところで、元長柾木の話をまだ読んでいなかったのだが、氏が見事にやらかしてくれた。氏の「たまねぎ現象には理由わけがある」は何故か他の作品の三倍ほどのページ数があるのだが、これを舐めて読んでいると痛い目に遭う。順序などは関係ないが、最後に読むことをおすすめする。

 今回から始まった企画ということで探り探りだったレビュー企画でしたが、少しでも気を引くことが出来たでしょうか。
 ……なんか好きなゲームたちの巧妙なステマだった感は否めないけれど……とまれ『セカンドノベル』、店頭で見かけたら手にとって見てはいかがでしょうか。(DL版もあるよ!)


公式サイト『セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~』
   http://nippon1.jp/consumer/secondnovel/

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