最近、よく異形の女の子の出てくる夢を見る。
一昨日は着物を着た黒髪の少女の幽霊の夢。彼女が生前住んでいた古い日本家屋の中に、僕とその幽霊の女の子が並んで立っている。そう歳を重ねたように思えない主人がお茶を一人分、持ってきてくれた。僕は複雑な気分になりながら、彼に「彼女の部屋を見せてください」とお願いした。彼は嫌そうな顔もせずに立ち上がり、僕――と、少女――を、彼女の部屋へと案内してくれた。そこは伽藍洞の和室だった。「彼女のものはなにもないんですか?」と僕が尋ねると、主人は「……妻が、全て捨ててしまったのです」と顔を伏せていった。少女の幽霊は、彼女の断片を何も感じない部屋を眺めて、悲しそうな顔をして僕の服の袖をぎゅっと握ってみせた。もちろん、感触なんてものは存在しない。僕は何とかしなければ、そう思った。
ここで『彼女』と僕の夢は終わる。
昨日は吸血鬼の少女の夢。彼女は僕の妹で、吸血鬼――厳密にいうならば、感染性の『血液以外のものを口にすることが出来ない病』らしい――にかかっていた。僕と妹は、何かから逃げるように、学校を飛び出し、知らない町のしらないアパートに身を寄せることになった。妹は飢えていた。でも、その病を他人に感染すことを頑なに拒んだ。日に日に虚ろになっていく彼女の瞳を見て、僕は妹に自らの血液を与えようとした。でもそれはもう日常に戻れないということを意味していた。
ここで『彼女』と僕の夢は終わる。
断片的で曖昧な記憶なため、幾つか合理的に修正している部分はある。だが、それが大まかな流れだった。共通することは『日常からの不可逆的脱却』だ。きっと、幽霊の彼女に入れ込めば、僕は戻ってこれなくなるし、吸血鬼の妹に血を与えれば僕も同じく夢の住人になる。
その直前で目覚めたのは幸か不幸か、自身を保つために無意識が施した自衛作用か。だけど、「彼女らを救えなかった」というとてつもない喪失感に襲われている。冬の痛い風を感じて、僕のできることはやはり一つしかないのだと再確認した。
彼女らを、なんらかの形でこの世に再現させる。それは文章かもしれないし、絵かもしれない。でも、僕は彼女らの幸せを願ってしかたがないのだ。
《2013-12-02》