baselineMemo/Archive/2013_03

#4ji_janai

某所でやった、ある規定字内で話が作れるかというもの。
はじめの一ヶ月ほどは毎日作っていた。段々と方向性が見失われてゆく。


2011-01-17
アハハ、なるほど四時じやないか」そう僕が言うと「お兄さまは何でもご存知なのですね」と彼女は笑つた。僕は彼女の小さな躰を抱いてやりそして小さく謝つた。光を映さない瞳に僕は嘘を吐いたのだ。 #4ji_janai

2011-01-18
「探偵さん……これでようやく二人きりですねえ……」僕の右腕は、黒光りした手錠で壁に繋がれている。ゴーンとひとつ、柱時計が鳴る。「アッ……あと三時間」僕は柱時計の下に目を遣る。デヂタルの文字が目に入つた。2:49…48。「……なるほど、四時じやあねえの……」 #4ji_janai

2011-01-19
「あなたなの……?」彼女は扉を開けて部屋の外を見た。当然誰もいない。「四時は死んだんだ」僕は彼女の背中に低く言う。「死んだんだよ」彼女は振り返る。「……四時、じゃないのね」彼女は自らの腹部に手を遣る。その動きは間違いなく母のそれだった。ポツリと涙が落ちた。 #4ji_janai #4ji_janai

2011-01-20
彼女は屋上の縁で「世界は毎日死んでると思う」言った。訊くと「だいたい」彼女は髪を押さえ「四時くらいに」笑う。強い「私と君と、三人で」風が「心中しない?」吹いた。僕は首を横に振る。彼女は残念そうな「なるほど」嬉しそうな顔で「四時じゃないものね」僕の手を握った。 #4ji_janai

2011-01-21
「まだ四時じゃないわよ」僕は時計を見遣る。針は1:22を指している。「どうして我慢できないの」僕は身を捩るが、縛られていて動けない。彼女は部屋から出る。……何時間経っただろう。彼女が戻った。「まだ四時じゃないわよ」僕は時計を見遣る。1:22。針は動かない。 #4ji_janai

2011-01-22
「私、魔法少女なの」彼女は言った。「四時を倒さなきゃ」バールの様な物を振り、言う。「なるほど四時を滅ぼさなきゃいけないんだね」理解しないまま僕が訊くと、彼女は笑顔で頷いた。世界は変わらない。彼女の魔法では世界は変わらない。翌朝のニュースが少し、変わるくらい。 #4ji_janai

2011-01-23
「夕ご飯食べるから四時には起きるって言ったのに。起きてくださいよ。先輩、どうして返事してくれないんです。ほら見てください、四時ですよねえ先輩。また四時ですよ先輩。ほらまた針が四時を指しました……。先輩……時計も、壊れちゃったじゃないですか……ねぇ、先輩……」 #4ji_janai

2011-01-24
「パパが私に」彼女は缶を僕に渡す。「四時になったら飲みなって」僕はそれを裏返す。「でも君は眠いのだろう?」訊くと彼女は頷く。「寝てていいよ。起こしてあげる」彼女は笑顔でベッドに向かった。……。彼女の寝顔を覗く。僕は缶を開け、寝ている彼女の口元へもって行った。 #4ji_janai

2011-01-25
彼女の話をしようか。彼女は気が狂っていた。毎晩、いや毎朝と言った方がいいのかな、とにかく毎日午前四時に、僕の携帯電話に連絡を入れてきていた。「なるほど」という甘ったるい声を耳元に残していったのだ。それはもう律儀に、毎日だった。……え、どうして過去形かって? #4ji_janai

2011-01-26
横たわる彼女の左腕の、四本の線条を撫でる。四センチくらい。僕は四日前を思い出す。あれは明け方、四時頃だった。投げ出された四肢と虚空を見つめる瞳。四方にはペン立ての中身と、赤が広がっていた。「……もう四時はこないよ」死に恋した彼女を、僕はそっと抱きしめた。 #4ji_janai

2011-01-27
「一緒に死にたいね」彼女が呟いて、七十年が経つ。当時を殆ど覚えていないが、その言葉と彼女のはにかんだ笑顔だけは最期まで無くさなかった。ちらと病室の時計を見る。四時まで保つまい。七十年前。学校に忍び込み、深夜ひとり潰えた彼女。僕はようやく、謝ることができる。 #4ji_janai

2011-01-28
「神様を殺しに行きましょう」放課後の教室。彼女は橙を背中に受け、言った。「面白いでしょう?」彼女は眼を細める。僕は「いいね」と頷いた。「まずこの学校の神様ね。校長室を爆破しましょう」僕と彼女は、夜の四時に待ち合わせをする。……でもね、知ってる? 僕の神様は。 #4ji_janai

2011-01-29
僕は彼女を好きになった。彼女は学校の屋上からアスファルトに落ちた。僕は彼女を好きになった。彼女は深夜四時頃通る貨物列車にひかれた。僕は彼女を好きになった。彼女は鉈で自分の手首を叩き落とした。きみが僕を好きになった。僕はまだ死にたくはないから、ごめんね。 #4ji_janai

2011-01-30
「先輩」彼女はベッドに腰掛ける。「太もも、舐めていいですよ」僕は慌てて首を振る。彼女は口元を歪ませた。「先輩、いつも私の足元に鞄、置きますよね」目の前が真っ暗になった。「四時には母が帰ってきてしまいます」彼女はスカートをたくし上げた。「舐めて、いいですよ?」 #4ji_janai

2011-01-31
「寒いね」彼女が僕の左手を握る。僕は頷く。助手席の彼女は、白い息を吐いている。時計を見たが四時にもなっていない。「寒い、ね」と彼女が言う。エンジンはかかっているが、暖房は、つけてない。つける、意味はない。「……」彼女も、物を言わ、ない。僕も、眠く、なって、き #4ji_janai

2011-02-01
僕は彼女の携帯にメールを送る。彼女から最後に送られてきたメールを見ると、昨日の午前四時前だった。別れを告げるメール。僕は彼女に、一度話がしたいと言った。昼間、彼女がアパートにやってきた。僕の願いは通らなかった。部屋は暗い。チロリンと、風呂場から音が聴こえた。 #4ji_janai

2011-02-02
肩を揺すられる。「四時よ」僕は目を開けた。彼女が僕の肩を掴んでいる。壁掛け時計を見ると、まだ三時だった。出るのが四時だから、三時半に起こしてくれと言ったのに。僕がそう文句を言うと、彼女はいつもの笑顔を浮かべ、腰に腕を巻きつけてくる。「なら、時間を潰しましょ」 #4ji_janai

2011-02-03
「子どもの頃」彼女が僕の隣で言う。ベッドの中、彼女は僕の右手を握っている。「四時まで起きてるなんて、有り得なかった」そうだね、と同意する。「もう、子どもじゃないんだよね」まだ四時じゃないよ、と僕は否定する。彼女は涙を浮かべ笑う。「じゃ、もう少し、このままで」 #4ji_janai

2011-02-04
「私、先輩のこと好きですよ」深夜の学校の屋上。「すごく、愛してます」彼女が右手を握ってくる。何か言おうとすると、彼女は首を振った。「わかってます……せめて四時まで」彼女は夜空を仰ぐ。濡れた瞳には星々が映っていた。冬の冷たい風が、彼女と私のスカートを揺らす。 #4ji_janai

2011-02-05
「先輩が素直じゃないからこうなってしまったのですよ?」彼女はそう言って、僕の腹の傷を舐める。痛みが走ったが、縛られている僕は呻き声を上げることしか出来ない。「先輩、この傷、きっと四時まで保ちませんよ?」傷を舐めている彼女の右手には小振りなナイフが見えていた。 #4ji_janai

2011-02-06
僕の右目には、元々の持ち主の最期に見た映像が克明に残されている。「でも僕は主人公じゃない」……例えば、可愛らしい女の子の部屋の壁紙と小物。例えば、壁にかかってる四時前の時計。例えば、目前にいる鬼のような形相の女性。それでも、僕は主人公になるつもりはない。 #4ji_janai

2011-02-07
裏切りだ。彼は私を裏切った。彼のことだけは絶対に許せない。「あんただけ幸せになれると思うなよ」だから私は、彼に復讐することにした。手始めに私の『親友』にプレゼントを送った。少し大きめの目覚まし時計。……私は自然と笑い出していた。「ああ、まだ四時じゃないのね」 #4ji_janai

2011-02-08
『ねぇ、先輩。わたしみたいなのは、生きてちゃいけないのかな。今日ね、ひどいことされたんだ。「お前みたいに価値の無いやつはせめて人様の役に立て」って。そうなのかな。ねぇ、先輩。メールください。四時まで、待ってます。お願い、します』僕は携帯の電源に指を伸ばした。 #4ji_janai

2011-02-09
四時まで帰らない兄の部屋から、古い雑誌を持ってくる。かろうじて平成二桁の日付とセーラー服の少女の表紙。目当ては136頁の素人写真の頁。目を隠し足を開いた制服の少女。長い黒髪と、白い肌と、足の付け根の黒子に、僕は見覚えがあった。先輩で、兄の彼女で、そして。 #4ji_janai

2011-02-10
「……人を殺すよりも、生きる方が難しいの」隅でスーツを着たまま体育座りをしている彼女。僕が入ったときは電気もついておらず、部屋は真っ暗だった。四時程ではないが、十分に深夜だ。彼女の肩に手を押こうとする。指に痛みが走った。彼女は微笑む。「人を殺す方が、簡単よ」 #4ji_janai

2011-02-11
待ち合わせは九時だった。『待ってる』彼にそうメールを送った。駅には電気もついてない。時計は四時前を指している。私は駅の入口の前でしゃがんでいた。寒さに震える指でメールを確認し、すぐに携帯を閉じる。私は立ち上がり歩き出す。カンカンと、踏切の警報が聞こえ始めた。 #4ji_janai

2011-02-12
「先輩……」ベッドに寝ていた彼女が上体を起こす。「おはよ」僕は壁に寄りかり座ったまま、彼女に声をかける。彼女は、はっとしたように時計を見遣る。五時を指していた。「……よかった」そう呟き、彼女は涙を流す。四時と死を結びつける彼女は、毎朝がこれの繰り返しだった。 #4ji_janai

2011-02-13
深夜の四時前だというのに彼女が家に来た。「はい」と、彼女はチョコレートを寄越してくる。「食べないの?」仕方なく口に入れた。何も入っていない。「ただのチョコか」僕が言うと、彼女は微笑み自分の髪を撫でる。「チョコは95%くらいだよ?」手首に白い包帯を巻いていた。 #4ji_janai

2011-02-14
腕を動かそうとすると、痛みが走る。最後の記憶があるのは昨夜の四時前だ。周りを見回す。自分の部屋だ。腕が動かない。ガチャリと扉が開く。足を引きずる彼女は僕に近づき、口移しで何かを食べさせてきた。その味には覚えがあった。吐き気がした。それが何か、わかったからだ。 #4ji_janai

2011-02-15
雪のベッドで指組み眠る制服の少女。彼女はもう呼吸をしていない。「愛の誓いの翌日に、朝と夜の境界に生まれたの」そう笑った彼女は、数時間前に睡眠薬を飲んだまま、動かない。僕は彼女の傍らで白い息を吐く。せめて、少女が生まれたという四時まで、こうしていようと思った。 #4ji_janai

2011-02-15
「よし、と」ひと月かけて、三十の雛を流し終えた。彼と彼女、二体一対の流し雛。もっとも、歪なものもあるけれど。……これは禊ぎ。誰でもない、自分の穢れを流すためだけの行為。僕は時計を見る。「なるほど」これで彼女に、許して貰えるだろうか。「四時じゃないか」 #4ji_janai

2011-02-21
「先輩」唇に触れる彼女の体温。呼吸が止まる。どのくらい経ったろう。今の時間がわからない。夜十時かもしれないし、朝の四時かもしれない。どのくらいたったろう。離れた彼女は、いたずらっぽい笑顔を浮かべてる。「なにを」僕が喘ぎ喘ぎ訊くと彼女は、「地球温暖化防止です」 #4ji_janai

2011-03-01
「御梨夢忠なんてどうですか?」彼女は膨らませた腹を撫でながら僕にそう訊く。僕は首を横に振る。「森々樹衛は?」横に振る。「じゃあ、獅子奮尋」横に振る。彼女は眉を寄せて、「先輩も考えてくださいよ、子どもの名前」僕は溜め息を吐く。「四字じゃなくてもいいのなら」 #4ji_janai

2011-03-24
カチリという音と共に紫煙が立ち上る。「吸うんですね」僕が言うと先輩は目を細めた。「……色々あったんだ、私」「……いまは何してるんです?」彼女はややして「サービス業」と言う。店は十二時で終わりだから、と続けた。先輩の伏せた目を見ると、なんだか胸が苦しくなった。 #4ji_janai

2011-03-24
「本当はね、四時に呼び出されたの」彼女は打ちっ放しのコンクリートの上にぺたりと座り言う。僕は携帯を握ったまま、彼女を見下ろす。「あやしいなって。だから、先に来て」僕がここに着いたときには、全てが終わっていた。彼女の傍らに転がるアイアンが月明かりを反射してる。 #4ji_janai

2011-03-24
「お兄ちゃん」彼女が窓の外を指差す。「千年前の人たちも、あの月を見てたんだよね」「四時近くまで起きてないだろ」僕が言うと、彼女はロマンがないとふくれて、「……千年前の人たちも、月を見ながらこんなことしたかなって思うと、燃えない?」同時に頬に温かい感触がした。 #4ji_janai

2011-03-24
お気に入りの赤い靴に白いドレス。お客さんの前でお辞儀します。今日もお客さんと踊るの。楽しい楽しい、せんせいから教わった踊り。あら隣から泣き声が聞こえるわ。私は大丈夫よ。こんなに上手に、お客さんと踊れるのだもの。あの時計が四時を指すまで、お客さんと踊るのよ。 #4ji_janai

2011-03-24
「不老不死?」ベッドの中で僕が訊くと、彼女は真剣そうに頷く。「私は本当は八百歳を過ぎてるの」彼女は続ける。「だから私に四時は来ないのよ」僕はそれを鼻で笑って、彼女の素肌の肩を抱く。「……貴方、おばあ様の写真を見たことあって?」彼女は低い声でそう、わらった。 #4ji_janai

2011-07-14
彼女は四時に生まれたらしいから、メールを送るのはまだ早い。僕は十年前の今日を思い出していた。蝋燭の明かり、その奥で微笑む彼女。穏やかな顔で横たわる彼女。……。多分、今年もすぐにメールが返ってくる。英語で書かれた同じ文面のメール十通を、僕はまだ消せないでいる。 #4ji_janai

2011-07-19
彼女を殺すのは四時と、三カ月前から計画していた。時計を見る。移動を考え、あと三十分で出ようと決める。包丁を鞄に詰めたとき、電話が鳴った。警察だった。彼女が殺された。犯人の心当たりがあったが、僕は黙って切った。時計を見遣る。問題ない。行き先が変わっただけだ。 #4ji_janai

2011-07-19
深夜放送の天気予報を見ているとき、兄が消えた。翌日家族に行方を訊いても、兄などいないとしか返ってこない。私は悲しくて、兄の痕跡を探した。いくら探しても子ども部屋はひとつだし、男の子向けの服もなかった。ただ唯一見つけたのが、袋に入ったままの古い青のベビー服。 #4ji_janai

2011-10-09
4jiとは、全てを超越した世界で生まれ、全てを見下ろし、全てに不安、恐怖、絶望の感情を与える存在 4jiを目で見ることはできない 触れることもできず、聞くこともできず、逃れることもできない そして我々は誰一人として4jiを地球上のどんな言語をもってしても表す術を知らない
この世の全ての感情、記憶、事象、行為を使っても、4jiを知ることはできない 感じろ。ただこの瞬間を。何も考えなくて良い 何も話さなくて良い 何も見なくていい 何も聞かなくて良い 何も触れなくて良い 感じろ。ただ目の前に広がる世界を 4jiを恐れてはいけない
4jiが怖いからといって逃げていてはだめだ その恐怖こそが自分の心の弱さであると気づけ あなたが4jiを恐れるのはあなたが4jiに見られているから 4jiは全てを知っている この世を生きることの意味。人間の深層心理。
未知への恐怖と期待の葛藤。 死ぬことの意味。我々がどこから来て、どこまでいけばいいのか。肉体はやがて滅び、その魂は虚数の大海に浮かぶのみ。ただ感じろ。4jiの存在を。
一つ一つの4jiが、 貴方を、未曾有の、 体験へと導く。 力強く潜在的な4ji を手に入れることは、ただ 単なる所有欲から、生まれるべきものでは無い。 何故なら其れは既に 4jiであるからである.∴∵.∴∴∵∴(・)∴.(・)∴4ji∴∵.

2011-12-25
雪の中で寝転び私は歌う。痛みは寒さで感じない。だから私は降る雪を見上げながら、夜の公園でひとり歌う。私は彼の中で、これ以上の存在になりえない。それはとっくに知っている。でも今日くらいは。右手で携帯を開く。きっと四時には、彼が来てくれる。真っ赤な左手を目印に。 #4ji_janai

2012-07-04
毎晩四時に僕の部屋を訪れる彼女は、きっと今夜も来るだろう。綺麗な長い髪を振り乱し、容姿に相応しくない言葉を吐きながら僕の首を締め上げ、日の出と共に文字通り消える彼女。毎晩、その繰り返し。つかれてるのかな、と思いながらも、楽しみに時計を見ている自分に気づいた。 #4ji_janai

2012-10-29
「四時って嫌でも孤独を感じさせる時間だよね」窓の外を見ていた彼女は急に振り返る。「何からも見放される時間って感じ」彼女は戯れるようにいったが、僕は眼鏡のレンズの奥に仄暗いものを見つけてしまった。「でも」僕は頭を振り、そっと手を重ねる。「まだ四時じゃないから」 #4ji_janai

2012-11-30
「私は怪盗フォー・オクロック。美しい私に盗めないものは、この世には何もないのよ!」「…………何やってんの、ねーちゃん……」「…………いつからそこに?」「……ねーちゃんがその変なマントとマスク作ってるところから」「…………」「…………」 #4ji_janai

2013-03-16
「君は読み違えた」原稿用紙をくしゃくしゃと丸めて詰める。「やられっぱなしって、性に合わないんだよね」くしゃくしゃに丸め、くぱぁと開いた彼女の腹腔に詰めていく。「文学じゃないけど勘弁ね」腕時計を外して竜頭をぐるり、彼女の膨れた腹に置いた。「残念、四時でした」 #4ji_janai
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