某スレに晒した圭一×詩音SS
貴方がそれを望んだのなら
私はその世界を受け入れます
彼女もそれを望んだのなら
私はその世界も受け入れます
どうせ選択肢が無いのなら
悲劇も喜劇も同じこと
* * *
「……県の興宮って所から来た、園崎詩音です。みなさん、よろしくお願いします」
当たり障りのない自己紹介で私の新たな学校生活が始まった。
私がこの学校に転校してきた理由は省くが、簡単に言うと興宮にはいられなくなったからだ。
全部あの鬼婆のせい……いや、本当は自分のせいなのだが。
私が前に通っていた学校は女子校――しかもかなりのお嬢様学校だったので、同じ教室内に男子がいるのは新鮮だった。
新鮮なのはいいことだ。
前の《施設》では毎日同じことの繰り返しで、新鮮味というものに欠ける。
日々の挨拶が「ご機嫌よう」だって? 先生のことをシスターだって?
そんなのはくそったれだ。
とにかく、新しいことに越したことはない。
「いまはどこら辺に住んでるの?」
「園崎さん、前にいたところってどんなカンジ?」
「今度、この町を案内しようか?」
昼食後のクラスメートによるそんなありきたりな質問も、私には新鮮に感じた。
でもそんなことより私には、この学校に来てやっておきたいことがあった。
私は教室の時計をチラッと見る。といっても、別に時間が知りたかったわけではない。
「あ、ちょっと先生に呼ばれてますから職員室、行ってきますね。」と、できるだけ笑顔で。
「園崎さん、職員室がどこにあるかわかる?」
「あ、ハイ。昨日、学校案内してもらいましたから。ではでは。」
手を振ってクラスメートのいる教室から出て行く。
教師に呼ばれてる……というのは嘘で、本当は一人になりたかっただけだ。
実は、かねてより学校の屋上というものに憧れていた。前の学校では校則が厳しく、上れなかったのだった。
シスターめ。ちょっと鍵を壊しただけであんなに怒りやがって。
屋上の場所は先日、担任が校内を案内してくれたのでなんとなくわかっていた。それに屋上というくらいだから、当然一番上にあるものだろうし。
階段を上り、屋上へのドアを開ける。キィと錆びた音。
生ぬるい風が顔に当たる。
ちぇ、思ったより気持ちよくないや。
私は辺りを見回す。
「……ありゃ、先客がいましたか。」
そこにいたのは同い年か、ひょっとしたら一つ年下くらいの男の子。なんだかYシャツが似合っている男の子。
でも表情が暗い。
あー、ありゃ魅音が一番嫌いなタイプだ。ウジウジしてて。
彼は一人だけで柵によしかかって、校庭を見つめている。校庭では昼食を食べ終えた男子生徒が楽しそうにはしゃいでいる。昼休みなんだから、彼も友達と遊べばいいのに。
少し気になり、近づき話しかけてみることにした。
「あなたは遊ばないんです?」
「……誰ですか?」
おっと、見ず知らずの人間――しかも今日転校してきたので絶対に知ってるはずのない人間だ――に突然話しかけられたんだ。それが正常な反応だろう。
「あはは☆ そうですよね。こんにちは。今日、転校してきた二年の園崎です。」
男の子は興味無さ気に軽く頭を下げ、また校庭を見始めた。
その横顔がすごく淋しくて──
少し私に似てるな、と思った。
ああ、そうだ。
彼は、ここには自分の場所がないと思っているんだ。
私が前の学校を抜け出した理由と同じように。
そして、雛見沢にいられないように。
だから、私は彼の気持ちが少しはわかるつもりだった。
ここは自分の居場所じゃない、と思ってる。
でもそれは同時に、淋しいことなんだ。
「じゃ、先輩。俺、行きますね。」
そんなことを考えてると、男の子は柵から手を離し、ドアの方へと歩いていく。
「え? ……あ。」
私のことを「先輩」と呼んだ、恐らく後輩であろう後姿が小さくなる。
名前を訊こう──と思ったのに、うまく言葉が出てこない。
あれ? おかしい。こういう時、なんて言えばいいんだろう?
やっと言うべき言葉を思いつき、慌てて言った。
「……えっと、そうだ。あ、あなた、名前……は?」
校内とを仕切るドアのノブに手をかけていた彼が振り返る。
う……噛みまくった。変に思われただろうか?
彼は頬を掻きながら、少し照れ気味に言った。
「……前原です。前原、圭一……」
そう言って彼は出て行った。ひとり、残された私。
「前原、圭一かぁ……」
声に出して言ってみる。少しだけ、ほんの少しだけ楽しくなってきた。
思ったよりも見晴らしが良くなかった屋上に、初夏の風が吹く。
雛見沢ではもうすぐ綿流しのお祭りの季節だ。
私は新しい出逢いを想い、夏の風を肌で感じた。
そう、ひぐらしのなく頃に。
<了>
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