4.好き


「好きってさ、難しいよね」
 彩華はそういってウーロンハイを煽り、空になったグラスをテーブルに置く。
「どうしたの、旦那と何かあったの?」
 彼女の空のグラスにお酒を注いでやりながら、綾姫は尋ねた。彩華からの突然の『飲みに行こう』というメールは、話を聞いて欲しがっていることを明白に物語っていた。なにせ、彩華が結婚して以来、自分と二人きりで飲みに行ったことはなかったのだから。
「旦那ね」彩華は注がれた酒を、また一気に飲み干す。「不倫してるんだ」
 結婚どころか、彼氏が出来たことがない綾姫は、何といえばよいかわからず「そう」とだけ答える。
「前に旦那、携帯忘れていったことがあって。その時、見ちゃったんだ」
「女の名前?」
 彩華は頷く。
「……知ってる人?」
「ううん」首を横に降る彩華。「でも多分、会社の女の子」
「そっか……で、あんたはどうしたいの?」
 綾姫が訊くと、彩華は顔を覆った。
「…………あんなのでもね、好きな、大切なひとなんだ……」
「……」綾姫は唇を噛んだ。私は別に何かを望んだわけではない、と自分に言い聞かせる。テーブルに置かれたグラスに口付け、ため息をつく。「……好きって、難しいね」
「……わかるの?」
「……わからない」


戻る

ページのトップへ戻る