12.的中


「あのひと、飛び込みますよ」
 日曜日の夜。はじめてのデートの帰り、綾姫が向かいのホームにいるサラリーマンを見て言った。キャリーバッグを傍らに置いたサラリーマンだ。
「どうして?」
 ぼくが尋ねると、
「なんとなく」
 と綾姫は答える。ミステリ研究会の後輩である綾姫は、妙にカンの鋭いところがあった。お昼を食べたイタリア料理店でも「先輩の料理、こないかもしれません」と、注文の直後にのたまって、事実ぼくは三十分待ちぼうけを食らわせられることになったのだった。
 ぼくは再びサラリーマンに目を凝らす。ややシワのよったスーツ。大きな荷物。焦点のあ――
 突然、轟音がサラリーマンが視界から隠した。特急列車が通過したのだった。耳をつんざくような音の中に、
「的中」
 と、からから笑う声がきこえた。


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